二月の酒は、
祭の膳に上がる
大山の酒蔵 蔵人 佐藤直樹さん
写真:湯気で天井が見えない、朝五時半の蔵
鶴岡の大山という町には、歩いて回れる距離に酒蔵が四つあります。これは、その一つで働く32歳の蔵人の話です。読み終える頃には、二月の庄内へ行きたくなっていると思います。
雪の音が聞こえる蔵
朝五時半。甑から立ちのぼる湯気の向こうで、佐藤直樹さんが蒸した米を掘り出しています。「雪の音って、聞こえるんですよ。町がこれだけ静かになると、麹が乾いていく音まで聞こえる気がする」
酒づくりが冬に集まるのは、寒さのおかげで雑菌が動かず、発酵がゆっくり進むからです。庄内の暮らしを長く縛ってきた寒さが、蔵の中ではいちばんの設備になります。
写真:蒸米を掘るスコップと湯気
東京で注いだ6年、蔵で3年
佐藤さんは庄内の別の町の出身です。東京の日本酒に強い店で6年、庄内の酒を注ぐ側にいました。
いい酒だね、と言われるたびに、嬉しいのに少し悔しかった。つくられている二月を、見たことがなかったから。
3年前、蔵人の募集に応募しました。一年目は腰を痛めかけ、二年目の二月、自分が麹を担当したタンクを初めて搾りました。
写真:蔵の入口、白い息の佐藤さん
ホワイトボードの「2/1」
休憩室のホワイトボードには仕込みの予定がびっしり並び、その隅に仕事と関係のない一行があります。2月1日、王祇祭。
その日、佐藤さんは早めに仕事を上がり、車で20分の黒川へ向かいます。500年以上続くと伝わる黒川能の、いちばん大きな祭です。夜の膳には、大山の酒が載ることがあります。
酒づくりは自分の仕事というより、町の仕事なんだと思うようになりました。
写真:雪の黒川集落、夕暮れ
四合瓶、約1,600円
米が酒になり、冬が酒を育て、その酒が祭の膳に上がります。二月の庄内では、仕事と祭と暮らしが、同じ雪の下でつながっています。この冬の新酒は、四合瓶で1,600円ほどです。
写真:雪の上に置いた新酒の四合瓶
いま、できること
この記事のつくり手に、いまお願いできることだけを載せています。